チケット転売の和解申入メールが届いた方へ──50万円・99万円の提示額は妥当か【弁護士解説】

当事務所には現在、チケット転売に関して「チケット不正転売対策事務局」を名乗る差出人から和解の申入メールを受け取ったという相談が多数寄せられています。
メールの差出元はTokyo Flex Law Officeとされており、株式会社ヤング・コミュニケーション(以下「YC社」)の代理人弁護士として送付されています。2024年秋以降、STARTO ENTERTAINMENT社およびYC社はチケジャムやチケット流通センターに対する大規模な発信者情報開示請求を進めてきました。開示によって特定された出品者に対し、現在、和解の打診が順次行われている状況とみられます。
主催者側が転売対策を強化している背景
和解金額の話に入る前に、主催者側がなぜこれほど大規模な法的措置に踏み切っているのかを理解しておく必要があります。
チケットの転売は、本来そのチケットを定価で購入できたはずの他のファンの機会を奪う行為です。主催者側にとっても、転売への対策として本人確認の強化、チケットの無効化処理、公式リセールサービスの整備などに多大なコストが発生します。
大阪高裁令和6年12月19日判決(USJの転売禁止条項に関する事案)では、転売禁止には高額転売目的の買い占めを防ぎ、一般の利用者が定価で安定してチケットを購入できる機会を守るという合理性があると認められています。また、2026年3月にはSTARTO社が、悪質な転売者に対して2,000万円超の損害賠償請求訴訟を提起しています。
つまり、転売行為には相応の法的リスクが伴うものであり、和解の申入れを受けたこと自体を軽く考えるべきではありません。
その上で、提示された金額にそのまま応じるべきかどうかは、ご自身の転売の具体的内容に照らして冷静に検討する必要があります。
和解案の内容
当事務所に寄せられた相談によると、メールで提示されている和解案はおおむね以下の2択です。
和解条件(1):和解金50万円
和解金50万円を支払う。細かい点は和解契約書で確認する。
和解条件(2):包括和解99万円
99万円の包括和解。記憶違いや多少の申告漏れがあるかもしれないという方向けで、追加の聞き取り調査はなく、和解契約の送付に進む。
メールには、(1)を選択して申告以外の転売が発覚した場合は和解が無効となりペナルティも発生する旨が記載されているようです。また、チケットの不正転売は規約違反にとどまらず、営業妨害行為やチケット不正転売禁止法違反という犯罪行為にも該当するものだという記載もあります。
提示額にそのまま応じる前に確認すべきこと
こうしたメールを突然受け取れば、誰でも動揺します。「犯罪行為」「ペナルティ」といった文言を目にすれば、一刻も早く解決したいと思うのは自然なことです。
ただし、提示された50万円や99万円が、ご自身のケースにおいて法的に相当な金額かどうかは、転売の具体的内容によって異なります。大切なのは、「50万円と99万円のどちらを選ぶか」ではなく、「そもそも自分の転売行為に対して、法的にどの程度の賠償が認められ得るのか」という視点を持つことです。
和解金額の妥当性は事案ごとに異なる
主催者側が転売出品者に対して損害賠償を請求する場合、その金額は「転売行為によって主催者に生じた実際の損害」に基づいて算定されるのが民事法の原則です。
たとえば、チケット1枚を定価1万円のところ3万円で転売した場合、転売差額は2万円です。これに加えて、主催者が転売対策や本人確認の強化などに要した費用の一部が損害として認められる可能性はありますが、損害の規模は転売の件数、差額の大きさ、取引が成立したかどうか、出品の反復性といった個別の事情によって大きく変わります。
多数枚を反復継続して高額転売していたような悪質なケースであれば、50万円以上の賠償が認められる可能性も十分にあります。STARTO社が2026年3月に提起した訴訟では2,000万円超が請求されており、態様次第では提示額を大幅に超える請求に発展することもあり得ます。
他方、1回限り少数枚を定価以下で出品したというケースと、常習的に大量の高額転売を行っていたケースとでは、法的に評価される損害の程度は大きく異なります。ご自身の転売の実態に照らして、提示額が相当かどうかを個別に検討することが重要です。
「犯罪行為」「刑事事件としての宥恕意思」について
メールには「チケット不正転売禁止法違反という犯罪行為にも該当する」との記載や、「法的手続に進行した場合、同条件が維持されることを将来的に保証するものではなく、刑事事件としての宥恕意思を示すものでもない」との記載があるようです。
チケット不正転売禁止法違反は刑事罰の対象であり、この記載を軽視すべきではありません。同法の「不正転売」が成立するためには、「業として」(反復継続の意思をもって)定価を超える価格で転売したという要件を全て満たす必要があり、1回限りの出品で反復継続の意思が認められないケースでは同法違反が成立しない余地があります。しかし、民事上の営業権侵害を理由とする損害賠償請求は、刑事罰の成否とは別の問題です。
また、STARTO社は対応姿勢に応じて法的措置の内容を変える旨を公表しています。和解の申入れに対してどう対応するかは、刑事告訴のリスクも含めた総合的な判断が必要であり、「刑事罰の要件を満たさないから問題ない」と単純に考えることはできません。
弁護士に相談した上で対応を決めることをお勧めします
和解の申入れを受けたとき、まず行うべきは、自分の転売の内容を正確に振り返ることです。何枚出品したのか、定価に対していくらで出品したのか、実際に取引が成立したのか。これによって、法的リスクの大きさと、妥当な和解金額の見通しは大きく変わります。
その上で、提示された金額がご自身のケースに照らして妥当かどうかを検討します。転売の態様が悪質な場合には、提示額での早期和解が最善の選択肢となることもあります。他方、転売の実態に照らして提示額が不相当と考えられるケースでは、減額の交渉を行う余地があります。いずれにしても、提示額が「裁判所が認定した金額」ではなく「相手方の希望額」であることを理解した上で、冷静に判断することが大切です。
転売行為には法的リスクが伴います。請求を受けた場合には、その金額の妥当性を含め、ご自身の事案に即した冷静な法的検討が必要です。
当事務所では、チケット転売に関する和解交渉のご相談を承っています。転売の態様に応じたリスク評価と、妥当な和解金額の見通しについてアドバイスいたします。
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